東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2369号 判決
然らば、破産宣告前なされた合意相殺は、破産法一〇四条により無効とされない場合には否認権の対象となり得るかというに、斯く速断することもまた許されない。
思うに、本件の如き合意相殺につき仮に否認権の行使を認めたところで、右行使の結果は単に相殺前における自働及び受働各債権の対立状態を復活させるにすぎないから、その後改めて破産法第八九条により相殺が行なわれるのを妨げるに由なく、結局前示否認の行使は無意味に帰着せざるを得ない。それ故、このような場合は、前記自働若しくは受働債権を成立させた行為につき否認権を行使し、相殺の基礎たる債権の対立自体を消滅させ得る場合があることは格別、合意相殺そのものにつき否認権を行使することは許されないものと解するのが相当である(大審院、昭和八年(オ)第一四三五号、同九年一月二六日判決、民事判例集一三巻七四頁参照)。されば本件合意相殺は、結局破産法第七二条の否認権の対象とはなり得ないものというべきである。
(鈴木禎 川添 山田)